中国には「がんの村」と呼ばれる地域がおよそ250あります。子ども服製造の一大集積地である浙江省の塢里村も「がんの村」です。違法な排水によって発がん性の高い有害な化学薬品や重金属に飲用水が汚染され、がんや原因不明の難病など、重度疾患の患者発症率、死亡率が高い地域のことを指しています。「がんの村」は、昨年6月、ようやく中央政府にその存在が認められました。
浙江省の塢里村の場合、中国の環境保護団体は、一部の紡績工場や染色工場が廃棄する有毒物質が、「がん」を引き起こしていると主張しています。しかし、すべての工場が同じ河川に排水しています。そのため、河川を汚染している工場としていない工場を区別することは、不可能だということです。環境保護団体は捜査権がないため、強制力を持った警察や保健当局が行わなければ、説得力のあるデータが得られないとしています。
浙江省の地方政府は、実態をよく把握しようとしないとも批判されています。「地方政府の役人としては地元の経済発展を優先したい。幹部の人事も非常に短い期間で代わって行く。腰を落ち着けて面倒な公共政策をやるよりも短期間で税収アップの成果を得られる経済成長に力を入れたい」というのがその理由だと環境保護団体は指摘します。
健康被害を訴えている住民の多くは農民や漁民です。「この村で、土壌汚染や地下水の汚染で難病や病死が多発している事実が広まると、農産物や魚、家畜が売れなくなり、暮らしていけなくなる。だから「”がんの村”だということを知られたくない」という複雑な事情もあります。
出荷される野菜や魚、肉は、生鮮食品として、加工食品として、中国各地、また世界各国に輸出されます。衣類の安全がないがしろにされていると、食の安全まで危うくなるという構図が、浙江省の「がんの村」から浮かび上がってきます。
中国衛生部によると、中国は”出生欠陥高発生国家”であり、毎年新たに生まれる障害を持った乳児は、およそ90万人です。その発生率は約5.6%にのぼります。20人に1人の割合です。出生時の障害が、乳児の死亡原因の第2位になっています。原因として環境汚染の深刻化や食の安全が保証されていないことが指摘されています。
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