モンサント社の主力商品に「ラウンドアップ・レディー(Round Up Ready)という遺伝子組み換え品種があります。同社の主力商品の除草剤「ラウンドアップ」を散布する準備が整ったという意味で、ラウンドアップを散布しても枯れないという遺伝子組み換え品種です。
この品種を栽培しようとするとき、農家はモンサント社のライセンスを受けた種苗業者から種子としての大豆を買います。購入にあたって、モンサント社はライセンス契約を定めています。その内容は「その種子は、1回だけ作付け・収穫ができる。収穫した作物は、食用または飼料として販売できる。収穫した作物から種を取り出して再び栽培してはいけない」という条件です。
1998年、カナダの農家パーシー氏がモンサント社に訴えられました。カナダは遺伝子組み換えが大規模に生産されています。パーシー氏が提訴された理由は、隣の農家が育てていたモンサントの遺伝子組替えナタネの花粉が風で飛ばされて、パーシー氏の畑に混入し、氏が半世紀をかけて改良した自家開発のナタネを遺伝子組み換えの花粉で交雑されて汚染されていたのです。
パーシー氏は、従来通り、自分のナタネから種を取り出し、蒔いたところ、モンサント社は自社の遺伝子組み換え種子を無断で栽培したという理由で、パーシー氏を特許侵害で訴え賠償金を要求したのです。
2004年、カナダの最高裁でパーシーさんの敗訴が確定しました。カナダ最高裁には9人の裁判官がいて、多数決で判決が下されます。この裁判では5対4と裁判官の意見は真二つに分かれました。
争点は、A.開発企業に対し植物全体と種子にまで特許権を認めるのか、B.汚染に気づかず栽培してしまったケースにまで特許権を認めるのか、C.農民が自家採種する権利と企業の特許権のどちらが優先されるのか、といった点でした。
世界の遺伝子組み換え種子の特許の90%を所有するモンサント社は、自社の開発した種子の他はどんな植物も枯らしてしまう強力除草剤ラウンドアップとのセットで世界中に遺伝子組み換え種子を強力に販売しています。カナダ政府は、化学薬品の使用を減らし、収穫も増えるというセールストークに、「遺伝子組み換え種子が何をもたらすのか」を十分に理解できないまま、モンサントの遺伝子組み換え種子を販売を承認しました。このことが、パーシーさん裁判の背景にあります。モンサント社のような最先端のバイオテクノロジーを駆使した品種開発の疾走するスピードと牽引力に、各国の法整備が追いついていけないのです。
インドでも多くの綿農家が、モンサントから訴えられて敗訴しています。
種という生命の根源に遺伝子を操作し、そこに特許権を認めるとどうなるのか?一企業が、特許権の行使を通じて地球の共有資産であるはずの種子の流通と多様性を支配しようとでもいうのでしょうか?
モンサント社は、2013年において、世界中の446の農家に対して144の訴訟を起こしています。
日本国内にも、モンサント社の遺伝子組み換えトウモロコシや綿花などの試験圃場(農地)が既に複数存在しています。対岸の火事ではなくなってきました。
(続く)