世界で一番厳しいオーガニックコットンの認証基準とされているGOTS(Global Organic Textile Standard=国際有機繊維基準)では、使用されるコットンのうち、70%がGOTS基準を満たす”オーガニック栽培”をしていれば、残りの30%がGOTS基準を満たしていなくても、GOTSの認証を得られるとしています。GOTS認証のコットンには「農薬を大量に使うので環境や農家の健康被害を招く」と問題視されてきた従来型の綿花が入っていると考えてほぼ間違いありません。他の認証団体も同様です。
そのオーガニック栽培も、殺虫剤や染色など、農業から工業過程において、総量規制はなく多量の有害化学物質の使用を認めています。こうなると、「オーガニックコットンって、いったい何?」という話になります。僕は2008年、フランスのオーガニックコットンの認証団体にカンボジアコットンの認証を得ようと申し込みをしたことがあります。当時は、こんな「からくり」があるとは思いもしませんでした。
オーガニックコットンの認証機関は、公的なものではありません。認証ビジネスで利益を上げる企業です。オーガニックコットンの栽培を推し進める非営利団体のメンバーは、コットン製品を販売する企業のメンバーでもあります。日本も同じ構図です。
「オーガニックコットンは素晴らしい」と宣伝しながら、アパレル市場に買い換え需要をもたらし、消費者に高いお金を払ってもらうことが、オーガニックコットンの認証ビジネスモデルなのです。
この認証ビジネスが最も成功したピークは、2009年から2010年と見られます。世界のオーガニックコットンの半分を生産してきたインドが、翌年に47%も、オーガニックコットンの作付けをやめているからです。
その背景には、オーガニック認証機関が、農家に対して高額な認証料を求めている実態があります。農家がオーガニックの認証を取得しても、農家からの買い付け価格は、従来のコットンの10%程度しか高く買い取ってもらえません。
オーガニックコットンにも、生産者と買い手の間に相場があります。インドのデカン高原で、種から布まで手広くコットンビジネスをしている友人の話だと、その相場が現在、次第に下がっているということです。
2005年あたりに市場に登場したオーガニックコットン製品は高額だったと思います。「地球環境の保護と農薬中毒に苦しむコットン農家を守るために、従来の栽培方法による農薬まみれのコットンから、オーガニックコットンに切り替えていくべきだ。そのためには、商品が高額になるのは仕方がない」といったセールストークだったと思います。
繰り返しになりますが、オーガニック認証が付いた「認証済みコットン」は、従来の栽培方法のコットンより10%程度しか高く買い取ってもらえません。実際の国際相場(ニューヨーク港)で、繰綿(くりわた=種を除去した繊維部分)が、1キロ=35円から40円程度で売買されているものが、10%分高くなるだけなのです。
Tシャツ一枚に使われるコットンの重量は、およそ250グラムから300グラムです。かつては、オーガニックの認証を得た途端に、そのTシャツの価格が1万円近くするものもあったわけですから、ちょっと計算してみたら、利益率の高さがわかるかと思います。
オーガニックコットンの原料価格が、だんだん下がってきたことが意味するのは、農薬を減らすことによる地球環境保護と農民の健康を守るといった「物語」が消費され尽くしてからとも言えます。オーガニックコットンは「幻想」だったことが、次第に明らかになってきたのです。
それと時を同じくして、大手量販店がオーガニックコットンの販売に力を入れ始めました。それまでブランド価値が下がるから、なるべく大手量販店には流通させないようにしていた商社や商社機能を持った紡績会社が、オーガニックブランドの陰りを感じ取って、量販店にオーガニックコットンを流し始めた結果です。「もうオーガニックだけでは、モノは売れないだろう」というのは、多くの関係者の一致した意見でした。
有害な農薬の大量使用、農地の砂漠化、農民の中毒死、貧困の連鎖…。そういった問題は、置き去りになったままです。コットンの大量栽培と大量生産、そして大量廃棄。この悪循環が続く限り、遠い国々の綿花生産者たちは、生涯にわたって報われない努力をし続けることになります。地球を包む薄皮のような表土を汚し続けたツケは、やがて支払わなくてはなりません。
(終わり)