コットン栽培で広く使われている殺虫剤に、有機リン系と呼ばれるものあります。耐性を獲得した「害虫」を駆除するために散布する量は、除草剤と同様に増加しています。
有機リン系殺虫剤は効力が強いとされています。その一方で、抑うつや衝動的な行動などの多くの精神症状を引き起こすことが知られています。
昆虫の体内に取り込まれると正常な神経の働きを阻害します。このため昆虫の正常な神経伝達が行われなくなり、昆虫に中毒症を起こさせて死に至らしめる仕組みになっています。
有機リン系殺虫剤のひとつ”Monocrotophos(モノクロトホス)”は、人体に与える危険性が問題となり、1989年にアメリカ国内での使用が禁止されました。しかし、国内で製造し、それを他国へ輸出することは認められており、インドでも使われています。
インドでは、殺虫剤や除草剤の散布は、多くの場合は無防備です。ゴーグルやマスク、防護服を買う余裕は綿作農家にありません。
インドの農家に自殺者が多いのは、遺伝子組み換え種子などの購入に伴う借金だけでなく、有機リン系の殺虫剤を使い続けることで農家が中毒になり、脳や中枢神経にダメージを受けていることが影響していると指摘する研究者もいます。
遺伝子組み換え種子を導入したインドでは、大量の殺虫剤と除草剤が使われるようになりました。多くの水を必要となったため、灌漑(かんがい)用の井戸を掘り、生活用水にも困るようになりました。そのわずかな水も、危険な化学物質で汚染されています。借金の返済のために農地を売り、今も多くの自殺者を生んでいます。
遺伝子組み換え種子の販売を、これまでに2つの州が禁止にしました。「夢の種子」と販売されてから12年間で、インドの綿花の95%が、一企業による遺伝子組み換え種子で栽培されるまでなりました。2つの州では、来期の綿作のための種をどうやって調達するかが大きな課題になっています。
(終わり)