遺伝子組み換えコットンの収穫高が急激に落ち続けていることが「インド農業危機」と呼ばれる事態を引き起こしています。この危機は、農民の自殺という結末につながっています。
農家の自殺には、複雑な要素が絡み合っています。非常に乱暴ですが大きく整理してみます。
A. インド産の綿花価格の下落と低迷
B. 遺伝子組み換え綿花の栽培コストが上昇
C. 遺伝子組み換えコットンの収穫高の激減
コットン農家が自殺に追い込まれる理由を考えた時、上記の3つがあると思います。僕自身、インドの綿産地のひとつであるデカン高原に、何度も通っていますが、この3つは必ず出てくる話です。
まず、Aについて簡単に説明します。
インド政府は、WTO(世界貿易機関)への加盟後に、市場開放をしてきました。いわゆるグローバル化を進めてきたわけです。2000年頃からは、インド農業の象徴である綿花市場を開放するかどうかで大きな議論になりましたが、徐々にアメリカや中国で生産された綿の輸入を解禁していくことになります。
その結果、アメリカや中国の安い綿が大量にインド国内に流れ込み、インド綿の価格も、それにつられて急激に下落したのです。当然、インドの綿農家の収入も減少します。
ここで多くの人が疑問に思うのではないでしょうか?
「中国は人件費が安いから理解できるとして、どうしてアメリカの綿が、インドの綿の価格を急激に下げるほど安く流通するのだろう?」
この答えは、アメリカ政府の綿農家の保護政策(農業法)にあります。アメリカでは、綿花農家に補助金を出し、国際競争力を高めるという政策を取っています。いくら大規模で工業的に綿を栽培しても、人件費の高いアメリカで栽培すればコストは高くつきます。高くついた自国産の綿のコストをアメリカ政府が税金でまかなって輸出しているというわけです。
アメリカが自国綿花の保護政策を廃止すれば、綿花の国際価格は10%から20%は上昇するという試算があります。自由貿易を唱える一方で保護貿易を続けているのがアメリカの農業政策です。
こうした影響を強烈に受けたのが、伝統的な綿花の栽培を続けてきたインドのコットン農家です。アメリカ、中国の綿花が国内市場に流れ込んできたことで、およそ30%から40%の綿花価格が下落したと言われています。この事態を受けて、マハラシュトラ州政府は、補助金を出して綿農家への救済をしましたが、根本的な解決には至りませんでした。
(続く)