前回④を書いたら、およそ3年前に、繊維について素人の僕の面倒をみてくださるタイの紡績業界の幹部の方に聞いた話を思い出しました。

「大事なことはオーガニックであろうとなかろうと買ったばかりの服は必ず洗ってから着ること。下着は絶対だぞ」とのでした。

前ポストの書き出しは、子ども服の無作為調査をしたら、ペルフルオロオクタン酸とノニルフェノールなど有毒な物質がすべてのサンプルから検出されたという内容です。

ペルフルオロオクタン酸とノニルフェノール。このふたつは、繊維産業においてなくてはならない程の代表的な化学物質です。

ペルフルオロオクタン酸の特徴は、以下の4つです。(経済産業省サイトより)

○ ヒト健康影響
アカゲザルに90日間強制で反復投与を行ったところ、4.5Mg/Kg/Day(体重10Kgのサルなら毎日45Mg投与)で全数死亡。

○ 難分解性
微生物を多く培養する汚泥に酸素が好きな微生物も酸素が嫌いな微生物も両方とも入れたが、ペルフルオロオクタン酸は微生物に食べられず分解されなかった。

○ 残留性と蓄積性
人為的な発生源から最も遠く離れた北極圏のクマやアザラシにおいても高濃度で検出されている。ペルフルオロオクタン酸の残留性と蓄積性は強い。

有害性が指摘されたため、米国ではペルフルオロオクタン酸について規制の検討を行っています。日本では、ペルフルオロオクタン酸は化学物質審査規制法の第二種監視化学物質に指定されました。

現在はデュポン社が製造を継続しています。自国では有害だからとその使用が禁止されていても、製造と輸出については合法という国もあります。
ペルフルオロオクタン酸については、世界各国の研究者が、その影響の調査に乗り出しています。

ノニルフェノールは、「環境ホルモン戦略計画 SPEED’98」において、環境ホルモン(内分泌かく乱)作用の疑いがある物質としてリストアップされた 67物質のひとつです。 女性(男性)ホルモンがその作用を発現するためには、同じ生体内にある受容体と結びつく必要があります。このことは、鍵(ホルモン)と鍵穴(受容体)によくたとえられます。

しかし、その受容体の鍵穴に、女性(男性)ホルモンに似ただけの偽の鍵「立体構造の化学物質」が結びついてしまうのです。そうすることによって、女性(男性)ホルモン作用を示すことがありますが、それは化学物質が引き起こした作用です。これが、いわゆる環境ホルモン作用です。女性ホルモンの受容体の鍵穴に合致する、合い鍵(ホルモン)が多いためか、環境ホルモン物質の多くは女性ホルモン作用を示します。

環境省の調査の結果によりノニルフェノールが魚類(メダカ)を用いた実験で、「女性ホルモン様作用」を示すことが確認されています。男性にも女性ホルモンは分泌されるので、「女性ホルモン様作用」があらわれる可能性はあります。

タイの紡績会社の方が僕に話した内容の意味がよくわかってきます。

ペルフルオロオクタン酸とノニルフェノールは、染色されたり、発泡性の模様がついているならば、以下の行程を経る中で、高い比率で使われています。

【精練・洗浄】  界面活性剤=洗浄剤、繊維に張りを持たせる、
柔らかくする、帯電や毛玉の防止
【紡糸・紡績】  潤滑油剤
【染色】      媒染剤、均染剤
【仕上げ】    柔軟剤 撥水剤
【織布】      潤滑油剤、生地の塗料の穴やまだら、へこみを直すための
塗料のラベリング剤

原料から生地を完成し、ひとつの製品を出荷させるまでに、8000種類以上の化学薬品が世界中のコットン製品の現場で使われていると見られています。

仮に、原料であるコットンの木が畑で厳密に管理されたオーガニックであっても、化学物質による染色や加工がされた後の工程は、まるで化学工場のようです。実際には、オーガニックの畑であっても、認証団体が認めた殺虫剤などは使用しても良いのです。危険と認定された薬剤が除外されただけです。

オーガニックコットンと言い始めたものの、多くの消費者が抱いていた「無農薬・無化学肥料」の期待に対して、実態はほど遠いものです。

表記を「減農薬・減化学肥料」としておけば、こんなに多くの人が混乱することもなかったと思いますが、それでは商品が売れなくなってしまうからでしょうか?

結局は、コットン製品の販売促進ツールで終わってしまいそうだということです。当初のコンセプトには大賛成だっただけに残念です。

オーガニックの次に、多くの消費者を惹きつけようとするコンセプトは、既にもう市場にやってきているように感じます。

(終わり)

6月 16, 2014 4:34:13AM